姿勢制御に必要な前庭脊髄路とは
前庭脊髄路は延髄にある前庭神経核から起こり、両側・同側性に脊髄まで下行する経路です。
前庭神経核は前庭神経が終止する神経核であり、平衡覚の情報を入力されるとともに、
小脳からの投射があるため視覚や固有感覚情報の入力もされ、体の平衡を保つよう体幹や四肢に指令をだしています。
特徴としては、皮質からの投射ではないため、すばやい姿勢反応に関与していることが挙げられます。
- 前庭系(頭部の上下や回旋)
- 視覚
- 固有感覚
- 足部
の情報を入力し、主に伸筋を興奮・屈筋を抑制し姿勢反応というかたちで体の平衡を保つよう働きます。
姿勢制御に関する記事はこちら
"前庭脊髄路は2つの経路からなる
前庭脊髄路は内側前庭脊髄路と外側前庭脊髄路のふたつから構成され、
それぞれ担っている機能が違います。
前庭脊髄路は腹内側系の下行路になります。腹内側系と背外側系の記事はこちら
内側前庭脊髄路
延髄の前庭神経核から上位胸髄まで下行する前庭脊髄路で、両側性に下行します。
頸髄と上位胸髄までのため、役割としては、頭頸部と上部胸郭の平衡に関与します。
両側性の下行であること、上位頸髄までの下行であることから頭部や肩甲帯の立ち直り反応の役割があることがわかります。
外側前庭脊髄路
延髄の前庭神経外側核から下部の脊髄まで下行する前庭脊髄路で、同側の前索を下行します。
役割としては、同側の上下肢の伸筋の興奮と屈筋の抑制になります。
特に、立位や歩行時の重心移動の際に賦活されるため、“同側下肢の伸筋の興奮”の役割はリハビリをする際に考慮すべきことでしょう。
重心移動で賦活されるということは、足部からの情報入力がこの外側前庭脊髄路を賦活させる上でとても重要になることがわかります。
麻痺などで底屈・内反位での足底接地では、足部からの情報入力が乏しく下肢の伸筋の興奮も不足してしまうことが考えられます。
そのため、足部のアライメントも整えてから立位や歩行訓練を行うと麻痺側立脚期での伸展につながるのではないでしょうか。
なぜ足底からの情報が抗重力伸展活動に必要かを述べているのでこちらもどうぞ
前庭脊髄路を考慮したリハビリ
上述しましたが、前庭脊髄路は・前庭系(頭部の上下や回旋)・視覚・固有感覚・足部からの情報で身体の平衡を保つよう働きます。
たとえば、座位にて骨盤が前傾すると前に倒れないように胸郭や頭部は抗重力方向に伸展して立ち直り反応が出現します。
立ち上がりにおいても、骨盤の前傾で足底に荷重がかかると下肢の伸筋の興奮と胸郭・頭部の伸展が起こることでスムーズに立ち上がれます。
片麻痺の方の立ち上がりを例にすると
➀過剰な努力で体幹を屈曲させて前方に重心を移動(または非麻痺側上肢を使用)
➁過剰努力によって麻痺側の共同運動や連合反応の出現
➂足底屈・内反が出現し、足底の情報を得られず前庭脊髄路を賦活できない
➃麻痺側下肢の伸展が不十分でさらなる代償・過剰努力を求める
につながります。
脳卒中の方のリハビリに応用すると
➀まず、屈曲相では体幹屈曲ではなく、骨盤の前傾で行い、上部胸郭の伸展を促す。上部胸郭の伸展を促せることで、伸展相における下肢の伸展の過剰努力を抑制できる
➁体幹の屈曲や非麻痺側上肢を使用しないことで、麻痺側の共同運動パターンや連合反応が少なく、足底をしっかり接地でき、足部からの情報を入力できる。
➂足部からの情報により、下肢伸筋が賦活される
➃過剰な努力がなく、麻痺側の伸展ができ、立位がとれる
このようになります。あくまで理想であり、この形をつくるためにまず、骨や筋のアライメントを整えたりする必要がありますが。
実際に前庭脊髄路の考えを応用した症例の記事はこちら
リハビリへの応用する際の注意点として
片麻痺の方の多くは頭部・胸郭は屈曲して姿勢を保持しています。
姿勢を安定させるために屈曲させていることが考えられます。
その状態では骨盤の前傾をさせても頭部が前方に揺らされるだけ(代償的に屈曲固定させているため)になり、揺られることで前庭系に過剰に刺激が入り、
バランスを保持しようと、下肢を突っ張らせたり、肩をすくめたりして、不良姿勢を助長させてしまう可能性があります。
そのため、まずはなぜ頭部や胸郭を屈曲させて姿勢を保持する必要があるのか、
体幹などの緊張や安定性はどうかなどのことも考え、そちらにもアプローチしてから行う必要もでてくるでしょう。
しかし、そのことだけ考えていたら活動量が少なり、患者さんが練習したいであろう歩行練習の時間がすくなってしまいます。
すべて代償や努力が悪いわけではないことも常に頭にいれておかないといけないですね。(自分に言い聞かせる意味を含め)
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