プッシャー(pusher)症候群のリハビリのために 原因、特徴、治療戦略をまとめました

ピサの斜塔 pusher



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プッシャー(pusher)症候群の病態

プッシャー症候群とは、脳卒中などで脳に損傷を受けた患者さんにみられる姿勢定位障害のことです。 プッシャー現象、体軸傾斜症候群などと呼ばれることもあります。

プッシャー症候群の患者さんは非麻痺側の上下肢で床面・ベッド面を麻痺側方向に押してしまい、麻痺側方向に崩れている・傾斜している姿勢をとります

セラピストが体を正中にしようと非麻痺側から麻痺側方向に押すと、さらに非麻痺側のpushを強めて押し返してくることが見受けられます。

これは、

①麻痺側の感覚低下から、座位や立位で麻痺側足底に荷重している感覚が少なく感じて、非麻痺側でpushすることで麻痺側足底により荷重をかけて非麻痺側と麻痺側の荷重感覚を均等にしようとしている

また非麻痺側の努力によって半球間抑制が強まりさらに麻痺側への感覚入力を抑制している

②患者さんが認識している“垂直”が非麻痺側側に傾いている

ことなどが原因と考えられます。

 

プッシャー(pusher)現象を主観的な垂直性、認知面から

なぜpusher症状が出現するのかについて、

・運動出力系→運動麻痺、体幹筋の筋緊張の不均衡による場合

・認知入力系主観的な垂直性が偏倚しており、それに合わせて体幹を立て直した結果pushしている場合

の2つが考えられます。

 

運動出力系についての研究は少なく、認知入力系については研究が行なわれています。

その一つとして

シーソーのような前額面上を左右に傾くことができる台座に座り体幹を固定し、開眼と閉眼のでそれぞれどのくらい台座が傾いているときに地面と垂直と判断しているかという実験です。

Pusher症例では、開眼では比較的垂直性が保たれているのに対し、閉眼では非麻痺側に傾けているときに“垂直”と判断したと報告されています。

この認知的なギャップを埋め合わせるために“push”しているのではないかという仮説が報告されました。

プッシャー(pusher)症候群を理解するポイント

・下肢の麻痺を呈する症例の10~20パーセントに出現

・左片麻痺に多く出現する

・左右どちらの半球損傷でも起こるが、右半球損傷(劣位半球の頭頂葉の障害が原因と考えられるため)に多い

・半側空間無視を伴う

・座位や立位で非麻痺側に荷重をかけると非麻痺側下肢がより突っ張る(足底屈や膝伸展で)

・座位や立位では麻痺側への傾倒に対して立ち直り反応が見られ、非麻痺側の体幹の側屈、短縮がみられる

半側空間無視のリハビリの記事はこちら

プッシャー(pusher)症候群に対するリハビリ

Pusher症状の患者さんに倒れるからといって、麻痺側から押し返してしまうと、「非麻痺側方向に倒れる」と認知してしまうため、よりpushを強めてしまいます。

リハビリとしては本人が思っている“垂直”が傾いていることに気付いてもらわないといけません。

 

視覚による垂直判断は保たれていることが多いので、患者さんには実際に自分の姿勢を見てもらって、「姿勢の垂直判断」と「実際に見た姿勢」が異なっていると理解してもらうことが推奨されています。

以上のことから、このようなリハビリを行っていくとよいでしょう。

長下肢装具も効果的でしょう。

①鏡を使用

自己の体性感覚などで判断した“垂直な姿勢”と実際に鏡に写っている姿勢との違いを理解してもらい、自分で修正できるのであれば修正してもらいます。

 

②点滴棒などの使用

点滴棒などの垂直の指標となるものを前方に置き、自分の鼻の位置をあわせたりして身体の垂直性をフィードバックします。

鏡と併用し、鏡に写っている自分と点滴棒がちょうど垂直に重なるようにあわせます。

 

③非麻痺側の上下肢をpushできない環境をつくる

非麻痺側上肢を真横の肩くらいの高さの台に置きます。この時に手のひらを乗せると押してしますので、なるべく上肢全体を置いて、安定感と安心感を付与できるようにします。

下肢は足底が浮くまでベッドを上げます。

このpushができない環境で骨盤前後傾での坐骨への感覚入力などをおこないます。

 

④壁にもたれながらの座位や立位

非麻痺側側を壁とし、体幹や上肢を壁にもたれ掛りかかりながら座位や立位をとります。

そのなかで、上肢のリーチなどで壁とリーチしている手の関係性、身体との関係性を、壁を垂直の指標として理解してもらいます。

 

⑤半球間抑制を考慮した治療

臨床場面においては半球間抑制を考慮して、まずは非麻痺側の努力をとってあげて、麻痺側の感覚入力に対する抑制をとってあげる必要があります。

そして麻痺側から感覚入力がなされることで、正中位を獲得できたら、こんどはその中で立ち上がりなどの運動につなげて正中での運動を学習させていくといったものです。

実際に半球間抑制を考慮してプッシャー症状が軽減した症例はこちら

とはいえ実際の臨床では、プッシャー症候群の症状に麻痺や痛み・運動失行や失認などの高次脳機能障害の問題も加わります。 そのためにリハビリアプローチが困難になることは、想像に難くありません。

プッシャー(pusher)症候群の予後

Pusher症状は時間経過とともに改善されていくとされています。

Pusher症状を呈する患者さんはpusher症状がみられない患者さんと比べ退院までの在院日数が長いと言われています。

また、右半球損傷でのpusher症状の回復は、左半球損傷でのpusher症状の回復より時間がかかる傾向にあります。

右半球損傷では半側空間無視を合併していることがあることが回復の遅延につながっているのでしょうか。