脳卒中片麻痺のリハビリ~体幹の賦活が麻痺側の分離運動につながった症例



Sherringtonは、「姿勢(posture)とは運動(movement)に随伴する影のようなものである」と述べていますが、

片麻痺の治療を行っていて体幹部の安定が四肢の分離運動につながったことを経験したので紹介します。

姿勢制御の記事はこちら

性別や既往歴、年齢などの情報は個人情報のこともあるのでだしません。

 

症状と身体機能

麻痺の程度に関しては右股関節でわずかに関節運動がおこる程度に随意収縮はみられる

膝関節と足関節は随意収縮はみられない

右上肢は肩~肘~手は随意収縮はみられない

感覚は正常レベル

 

"

特徴的な動作や姿勢

体幹部のアライメント

右側体幹は屈曲し右肋骨は後方へ突出、腰椎右傾斜(右第10肋骨と腸骨稜の長さが短い)、体幹左側屈、右骨盤下制し非対称性がみられる。

骨盤は後傾し、胸椎部の屈曲が強く、vertical orientationが不十分

立ち上がり

屈曲相では骨盤の前傾は不足して、体幹の屈曲を強めこのときに右股関節は内転の連合反応がみられる。

離殿相ではさらに右股関節屈曲、内転を強めて胸椎左回旋をつよめ動作を行う。柵などを使用し右上肢でのプッシュを用いて伸展していく。支持物がなければ困難

歩行

右支持期ではロッキングがみられる。左支持期では左の伸展も不足し下肢屈曲位であり、右swingはひっかかりがみられる

ポイントとなるハンドリング

・骨盤~脊柱の可動性は乏しいも、腰椎部の右傾斜アライメントを修正できると骨盤~腰椎の動きがでる

・非麻痺側の伸展活動を援助すると、麻痺側の膝、股関節の伸展につながる

・立位では下肢の伸展を支持すると体幹屈曲と骨盤を後方へひくようにする代償みられ、股関節と骨盤の分離がみられない

"

仮説

・脳幹梗塞による右体幹部の低緊張によって腰椎右傾斜、右骨盤が下制、右体幹の屈曲し、その代償として体幹左側屈がみられ、非対称性の座位姿勢となっています。

 

・立ち上がりでは、体幹屈曲、左回旋を強め、その連合反応によって右股関節内転がでて、

右下肢のストレートラインが崩れ測定への荷重も減少し、左下肢(非麻痺側)の過活動が必要となり、

左股関節屈曲筋の代償により、股関節と骨盤の分離運動が乏しくなると考えます。

 

・長期間の脊柱の屈曲姿勢(円背)で抗重力伸展活動が阻害され、網様体脊髄路の不活性につながり、

それによる非麻痺側下肢の伸展活動の不足と左股関節屈筋の過活動により、歩行時右swingでのひっかかりにつながっていると考えます。

 

治療(3ヶ月ほど)

治療の目標としては

・座位での対称性を獲得し、体幹左側屈代償を抑制することで骨盤と脊柱の分離運動につなげ橋網様体脊髄路を活性化する。

網様体脊髄路に関する記事はこちら

・橋網様体脊髄路の賦活から両側体幹の伸展活動の賦活につなげ、STSでの代償動作の改善から右SLPの獲得につなげる。

その結果、麻痺側下肢のsensory inputにより前庭脊髄路が活性化し下肢、体幹の抗重力伸展活動を促す

になります。

 

背臥位での片膝立て位にて体幹筋と内側ハムストリングスの賦活

非麻痺側の片膝立て位にて、非麻痺側の大臀筋、内側ハムストリングス近位部を徒手的に促通しながら非麻痺側の骨盤後傾と脊柱の運動を引き出していきます。

またこのときに麻痺側の腹斜筋の促通(呼気に合わせて徒手的に下部肋骨を下制)と、骨盤後傾の誘導に伴う非麻痺側の腰背部・側腹部を遠心性に伸張を促していきます。

 

それにより、座位での左側屈代償が改善し、左右対照的な座位の獲得につながりました。

立位にて非麻痺側下肢の伸展活動の賦活

立位にて非麻痺側大殿筋を収縮方向に促通し、非麻痺側下肢の伸展と踵への荷重の誘導にて前庭脊髄路の賦活から両下肢の伸展活動につなげます。

歩行時に非麻痺側下肢の伸展活動が得られたことで、左swingでのひっかかりが少なくなり、本人も「軽く足でるね」と実感ありました。

しかし、骨盤と脊柱、股関節の分離運動は不十分で、骨盤の後傾運動が入ると後方重心になるのを胸椎での屈曲を強める代償がみられ、

前傾の運動が入ると、腰椎と骨盤は分離せず体幹前傾してしま状態はみられていました。

座位での非対称性のアライメントの修正

座位の中で腰椎右傾斜のアライメントを修正し右腹斜筋の長さをつくることで、

右肋骨の後方偏移が修正でき、それに伴い、骨盤と脊柱の腰椎骨盤リズムの運動を引き出すことができ、

網様体脊髄路の賦活から体幹の抗重力伸展活動を高めることができました。

 

また、その後、膝関節と足関節の分離運動が収縮は弱いながらも可能となりました。

この姿勢を修正していないと、膝と足の随意収縮は困難でした。

 

足関節の分離運動の促通

歩行時のICでの踵からの接地は、前提脊髄路系のスイッチとなり下肢と体幹部の伸展活動につながるため、非常に重要です。

そのため、座位の左右対称性のアライメントを保証し、足関節の随意運動ができる状態をつくったら、

前脛骨筋の筋と腱をダイレクトに擦り、伸張をかけながら強い収縮ができるアライメントと筋張力の状態をつくっていきます。

それで背屈運動の随意収縮を強くしていき、歩行時は足関節は背屈を自動介助で援助しながら行いました。

 

短距離の歩行では装具なしで踵接地は可能でしたが、距離の増加に伴い杖への依存も強くなり、麻痺側の引きずりがみられる状態でした。

 

退院時の立ち上がりの変化

入院当初

・屈曲相~離殿相では体幹屈曲、左回旋をつよめる

・離殿時~伸展相で右股関節内転し、ストレートラインから逸脱

・伸展相では正中線が左に偏移し伸展を行なう

 

退院時

・屈曲相~離殿相では体幹の屈曲は少なくなっている

・離殿時~伸展相で右下肢はストレートラインを逸脱しない

・伸展相では正中線の左偏移は軽減

・しかし、両膝の屈曲位は改善みられるもまだ不足

参考図書・教科書