脳卒中片麻痺の症例/垂直オリエンテーションの知覚が下肢の伸展活動につながった症例



よく検査上の感覚障害は正常または軽度鈍麻、ブルンストロームステージではⅥレベルなのに、歩行などの動きを伴うと、検査の結果以上に麻痺が重度そうな動きである症例を経験することもあると思います。

垂直オリエンテーションというものに着目したら改善がみられたことを経験したので紹介します。

性別や既往歴、年齢などの情報は個人情報のこともあるのでだしません。

症状と身体機能

簡単に身体機能を

運動麻痺:ブルンストロームステージでⅥレベル

感覚障害:軽度鈍麻

関節可動域:N.P.

 

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特徴的な姿勢や動作

 

立位姿勢

左下肢の伸展活動が不足して膝は屈曲している。口頭で伸展を指示するとできるが保持はできない。

Sway back様の姿勢であり、胸椎部の屈曲がつよく、フォワードヘッドである。右肋骨前方偏倚、右腰背部過活動があり、右側体幹の屈曲がとくに強い。

座位姿勢

立位時と同様に胸椎部~肩甲帯の屈曲が強くフォワードヘッドである。

また両上肢は膝に置いており、プレースしようとしてもかなり重さがある。

腰背部は過緊張であり、骨盤と脊柱の運動は徒手では誘導できない。

 

歩行

立位姿勢と同様に胸椎~肩甲帯の屈曲は強い。

特徴的なのは右stance期にて右膝は屈曲しており、左swingは引きずっている

本人もそれをわかっており「左足が床とくっついている」と表現する。

 

ポイントとなる誘導やハンドリング

・立位では左下肢の伸展活動が不足し、膝を伸展位で保持できず、立位にて右側へ荷重を誘導すると股関節での抵抗感が強い

・両側の内側ハムストリングスと腹斜筋は低緊張で不活性である。

・腹直筋は過緊張がみられる

後方に安定があり垂直オリエンテーションの知覚ができると頭頸部・肩甲帯・胸椎の抗重力伸展が可能

体幹部の抗重力伸展活動ができると立位での両側内側ハムストリングスの収縮につながる

・腹斜筋と両hipの伸展活動が高まると下肢の伸展活動が高まり、右側荷重での押し返すような抵抗は改善し、

左への荷重を誘導したときの膝の伸展活動も維持したまま可能

 

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仮説

垂直オリエンテーションの知覚が不足することで、頭頸部~肩甲帯、胸椎の屈曲固定を強め、腹直筋の過活動を生じさせています。

それにより腹斜筋、内側ハムストリングスの弱化から、下肢の伸展活動の不足につながっています。

右肋骨前方偏倚、右腰背部過活動で右側体幹の屈曲を強め右下肢の過活動を助長し、

歩行時の右stanceでの抗重力伸展活動に乏しくなることで左下肢step時のひっかりが生じていると考えます。

 

治療介入(1週間の治療介入です)

腹直筋の長さをつくり、抗重力伸展ができる準備をする

垂直オリエンテーションを得るためには、その準備が必要になります。

腹直筋の過活動から短縮に至っているため、まずは腹直筋の粘弾性の改善から胸郭の伸展方向への可動性を引き出していきます。

腹直筋が過活動にならないようもたれ座位を選択し、腹直筋のモビライズを行っていきます。

この際に恥骨の直上くらいの腹斜筋を圧迫しておくことで、腹直筋上部がゆるみモビライズがしやすくなります

その後の座位・立位姿勢では胸椎部の屈曲姿勢に改善みられる。

これで右体幹の抗重力伸展を徒手的に誘導しやすくなり、右側の抗重力伸展を保っておくと、右下肢荷重を促しても膝の伸展活動を維持することが可能になります。

腹斜筋の促通と内側ハムストリングスの促通

背臥位では腰背部過緊張によりコアの賦活が困難なため、両下肢挙上位でポジショニングをすることで腰背部の過緊張を抑制します。

両下肢挙上位のまま両内側ハムストリングスを把持して反応しやすいようハンドリングしていき、促通します。

またそれと同時に骨盤後傾でのブリッジを誘導し、腹斜筋の促通もします。これにより立位では内側ハムストリングスの収縮が得られます。

背臥位の治療ポジショニングの記事はこちら

座位での抗重力姿勢での脊柱や骨盤の運動とそれに伴う体幹筋の賦活

右肋骨前方偏倚、右腰背部過活動があり、リアライメントすると立位では下肢の伸展活動が高まるという評価があったので、それを応用します。

右坐骨荷重と右肋骨を後方へリアライメントして右腰背部筋の過緊張がとれたなかで骨盤と脊柱の運動をひきだしていきます。

 

立位にてheel riseによって伸展活動のさらなる賦活を図る

立位にて後方リファレンスを与えて抗重力伸展方向のオリエンテーションを知覚してもらいながら、

内側ハムストリングスの促通とあわせて、heel riseにて前庭脊髄路の賦活を図ります

それによって左step時の右下肢へのウェイトシフトが可能となりました。

前庭脊髄路の記事はこちら

歩行時のICを意識させる

前方にベッドを高くし上肢挙上位でポジショニングし体幹の抗重力伸展を保ったまま、片脚をstepさせて踵からつけるように徒手で背屈させながら行います。

踵から接地することでの前庭脊髄路の賦活から伸展活動の賦活につなげます。

またこのときはstepさせる下肢を持ち上げて誘導しますが、体幹部の屈曲につながらないように、

徒手で股関節に軸圧方向にコンプレッションをかけておきます

治療のまとめ

後方リファレンスを与えて垂直オリエンテーションの知覚を行います

骨盤と腰椎の選択運動から内側ハムストリングスと腹斜筋の賦活から網様体脊髄路の働きを促して、

これらにより足底の感覚情報入力を促通して、下肢から体幹への伸展活動を促します。

そして立位でさらなる前庭脊髄路を賦活できるエクササイズを行っていきます。

網様体脊髄路の記事はこちら

介入後は歩容に変化が見られましたが、なかなか翌日へのキャリーオーバーが難しく、

パーキンソン二ズムも疑われるような歩容であり、脳画像や薬剤などの情報もしっかり入手しておかなければならなかった症例だと勉強になりました。

 

参考にしてみてください。

参考図書・教科書