筋緊張とは
私たちは別に力を入れようと意識していなくても、立った状態を保っていますし、座っても崩れずに保てています。
これは筋を随意的に収縮させなくてもある程度力が入っている状態“緊張”を保っているためであり、
この筋の緊張の程度のことを「筋緊張(muscle tone)」「筋トーヌス(muscle tonus)」といいます。
筋緊張は筋が活動する際の準備状態の意味合いもありますし、運動を行う際の姿勢制御や運動の制御にも関与するため、人間の姿勢と運動に欠かせないものになります。
"筋緊張の異常の種類
筋緊張の異常として大きく、亢進と低下にわけられます。
臨床のなかで中枢神経障害の患者さんの治療において痙縮と低下のどちらも問題となることが多いでしょう。
筋緊張亢進/筋トーヌス亢進(hypertonia)
被動運動に対して筋の抵抗感がある状態です。
痙縮と固縮、痙固縮があります。
臨床では痙固縮が混在していることがあります。
痙縮と固縮については下記に詳しく記載しています。
※過緊張と高緊張
この言葉は“亢進”と似ており、実習のときなどは混乱した記憶があります。
私は、過緊張・高緊張という言葉は整形疾患などの中枢神経系が障害されていない状態で緊張が高い状態のことと捉えます。
逆に亢進という言葉は、中枢神経系の障害によって出現した緊張の高い状態のことと捉えています。
おそらくこの捉え方でおおよそ良いと思いますが、実習などではバイザーの先生が違う解釈をしている場合もあると思うので、学生の方はそこは臨機応変に対応してほしいです。
筋緊張低下/筋トーヌス低下(hypotonia)
筋紡錘からの求心性入力や下位運動ニューロンの障害で起こります。
筋緊張の低下によって、筋は触診上柔らかく、他動的に関節を動かすと抵抗感が減弱している感じをうけます。抵抗感のほかに関節は過伸展や過屈曲がみとめられます。
弛緩(flaccidity)は筋緊張が全くない状態とされ、筋緊張低下(hypotonicity)は筋の伸張での硬さの減少した状態を指します。
筋力低下や姿勢の支持性低下につながります。
痙縮と固縮の違い
痙縮(spasticity)
痙縮は錐体路障害、上位運動ニューロン障害によって起こり、関節を他動的に動かした際に動かし始めは抵抗感があるも、
それ以降は急に抵抗感が少なる、『ジャックナイフ(折り畳みナイフ)現象』が特徴です。
他動的に関節を動かされたときの筋の伸張速度に依存するため、クローヌスもみとめられます。
今後、痙縮のメカニズムと神経経路の記事を書きたいと思っています。
固縮(rigidity)
固縮は大脳基底核が障害されたことでの錐体外路障害で起こり、関節を他動的に動かした際に、
筋の伸張速度に依存せず動かし始めから終わりまで一定の抵抗感があります。
これが固縮の特徴的なもので『鉛管様現象』と表現されています。
また、ガクッガクッ、ガッガッガと断続的に抵抗感が出現することもありこれを『歯車様現象』と表現します。
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痙縮 |
固縮 |
障害経路 |
錐体路障害 |
錐体外路障害 |
伸張反射 |
亢進 クローヌス(+) |
正常もしくは軽度亢進 |
他動運動時の抵抗感 |
急激な他動運動により筋の抵抗感がある ジャックナイフ現象 |
他動運動時は常に一定の抵抗感がある 鉛管様・歯車様現象 |
伸張速度との関係 |
伸張速度に依存 すばやい伸張ほど抵抗感が増す |
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"
筋緊張の評価
➀視診
筋をみるのであれば、緊張が亢進している場合は膨隆してみえたり、緊張が低下していれば薄い、扁平様にみえたりします。
アライメントみる場合は左右の比較と健常とどう違うのかを確認します。
➁触診
筋の硬さを感じたり、アライメントの崩れを確認します。
➂被動性
MASに関する記事はこちら
➃伸展性
他動的に伸張させたときの度合を確認し、緊張が亢進していると可動性が少なく、低下時は可動性が大きくなります。
➄深部腱反射、クローヌス
➅姿勢や動作の観察
背臥位、座位、立位などそれぞれの肢位で、姿勢筋緊張は変化します。
その人がどういった動作のときにどの部位の緊張が亢進しやすいかなども観察しましょう。
痙縮による生活上の問題
疼痛
脳卒中片麻痺での疼痛としては肩関節に出現することが非常に多いと思います。
屈筋である上腕二頭筋、大胸筋の緊張が亢進することで、肩関節運動時に疼痛が出現しますし肩関節亜脱臼による靭帯が伸張されることでの痛みやインピンジメントなども起こります。
また、手指も同様に屈曲筋で緊張が高まり伸展すると手指に痛みがでることが多いです。
衛生面での問題
これは手指でよく遭遇します。
手指屈曲筋の緊張亢進により手指の屈曲拘縮に至ると、特に指と指の間が汗で蒸れるなどしますが、
拘縮により開きづらいため清拭がおろそかになってしまい、臭いがこもってしまいます。
動作の阻害や外観の変化
痙縮でよくみられるWernicke-Mann肢位での変形は若い患者さんで気にされる方もなかにはいらっしゃいます。
また足は内反・底屈によって支持性の低下や、ぶん回し歩行などの特徴的な歩容をきたします。
上肢の痙性が強いと、肩の内転、内旋、肘の屈筋などの痙縮により更衣動作などで妨げになることが多いです。
筋緊張亢進に対するアプローチ
・薬物療法
筋弛緩薬、抗痙縮薬などが用いられます。
・神経ブロック、ボツリヌストキシンの局所注射
筋の痙縮が強い部位に対し、局所的に神経ブロックを行ったり、ボツリヌストキシンの局所注射を行います。
・リハビリ
運動療法や物理療法、装具療法が挙げられます。
筋緊張亢進に対するリハビリ
筋の伸張(ストレッチ)
ゆっくりとした持続的な伸張はIb線維を興奮させ、その興奮が脊髄後索から抑制介在シナプスを経由してα線維を抑制させます。
相反抑制を利用した運動
Hold-relaxの手技を用い、拮抗筋を等尺性に収縮させることで相反神経抑制によってターゲットとなる痙縮筋の抑制をかけます。
物理療法
温熱療法
筋の加温によって血液循環や代謝の増加から粘弾性の低下による伸張性の増大、また疼痛閾値の上昇での疼痛が軽減することで緊張を和らげるなどで抑制します。
寒冷療法
寒冷療法では、神経の伝達能力の低下や筋紡錘の興奮性低下によって痙縮の抑制を図ります。
『物理療法を知ろう!寒冷療法の効果や禁忌、生理学的作用をまとめました』
電気刺激療法
電気刺激によって筋を興奮させて、相反神経を利用した抑制や、筋再教育によって痙縮の抑制を図ります。
装具療法
装具によって痙縮による拘縮や変形を予防することができます。
装具を装着したことで、歩行時のICやMSt~TStでの下腿前傾や股関節伸展の動きの感覚が入力されることでの筋再教育などでも抑制が図られるのではないかと自分は考えています。
ポジショニングや姿勢調節
背臥位をみても、片麻痺患者さんは支持基底面の感覚入力が乏しいと、非麻痺側の過活動がとれず、
それが麻痺側連合反応につながったり、半球間抑制での麻痺側の感覚入力を抑制することにつながり、
さらなる麻痺側の不活性や感覚入力の乏しさにつながります。
臥位でも座位でも立位でも非麻痺側の過活動をとれるような姿勢調整をしたり、
麻痺側の感覚入力がされやすい身体状況をつくることで、よけいな連合反応などを抑制することができると考えます。
半球間抑制の記事はこちら