前頭葉機能とは?
前頭葉は大きく3つの部位にわけられており、前頭連合野・高次運動野・一次運動野にわけられます。
前頭連合野は前頭前野とも呼ばれます。
判断、企画、創造、注意、抑制、コミュニケーションなどの高次脳機能と呼ばれるものに関与しています。
高次運動野は運動前野と補足運動野に分けられ、運動の準備とプログラミングに関与します。
一次運動野は運動の指令に関与します。
運動に関与しますが、とても重要な機能として前頭連合野の機能になります。
運藤ももちろん大事ですが、よく事故で頭を打ってしまうと、運動麻痺はなく身体機能は何も問題がないのに、
怒りやすくなったり、物事を順序良く計画できなくなったりといった症状が出現し、社会復帰の大きく阻害してしまうことがあります。
これはこの前頭連合野が障害されたケースで起こります。
前頭連合野は人の人間性(人間らしさ)を保っている部分であり、損傷することで異常行動や異常発言が目立ったり、人間らしさを失った人格荒廃といった症状が起こることもあります。
「他人からみれば怒りやすいし、仕事もできない人」とみられてしまい、いままで積み上げてきた人間関係、信頼性も失ってしまい、身体機能ではなく社会的に後遺症を残してしまうといえます。
FABは前頭葉機能検査であり、この前頭連合野の人間らしさを保つ機能を検査するものと言えます。
"FAB 前頭葉機能検査
FAB前頭葉機能を簡単かつ短時間にスクリーニングするためにDuboisらによって考案されました。
英語では「frontal assessment battery 」であり、単語の頭の文字をとってFABとしています。
FABとは、
(1)概念化課題
(2)知的柔軟性課題
(3)行動プログラム課題
(4)反応の選択課題
(5)GO/NO-GO課題
(6)把握行動課題
という6つの下位項目からなる簡易な面接方式の検査になります。
10分程度で検査が施行でき、短時間で簡便に検査ができるため広く臨床では使われています。
FAB(前頭葉機能検査)の目的
目的としては4つが挙げられます。
・注意障害の判別の有無を判断するため
・脱抑制行動の有無を判断するため
・遂行機能障害の有無を判断するため
・前頭葉の機能検査として
"
準備するもの・場所
・検査用紙
・筆記用具
・ストップウォッチ
検査場所はなるべく静かで集中できる場所が望ましいです。
人が行き来するのが見える場所は集中できないし、時間によって人がいたりいなかったりするため再検査のことも考慮すると個室か半個室がいいでしょう。
再検査するときは同じ場所で行います。
FABの実施方法、採点基準
1.概念化【類似性】
言語による概念操作に関連しますので、右利きの人では左半球の前頭前野の活動をみるものです。
【練習】
「これから言う2つのものは、どこが似ているか考えて答えてください。
まずは練習してみますね。 『電車』と『バス』 」 (正答:「乗り物」、「交通機関」)
・正答が出た場合は「はい、結構です。次の質問も、同じように答えてください」と言い本番へ。
・答えに戸惑ったり、誤答の場合は「電車とバスは両方とも乗り物ですね、次の質問も同じように答えてくだ さい。」と言い本番へ。
【 本 番 】
質問①:「バナナ」と「みかん」は? (正答:「果物」「フルーツ」「食べ物」)
質問②:「テーブル」と「いす」は? (正答:「家具」)
質問③:「チューリップ」、「バラ」と「菊」は? (正答:「花」「植物」)
・被験者が複数回答した中に正答が含まれていれば可。正答がでなくても、ヒントをあたえず先に進む。
・15秒程度何も反応がない場合は次の質問に進む。
正答数 |
点数 |
3問正解 |
3点 |
2問正解 |
2点 |
1問正解 |
1点 |
正答なし |
0点 |
2.知的柔軟性【語の流暢性】
おもに言葉を作り出す領域、すなわち、右利きの人では左半球の前頭前野の活動をみるものです。
「”かきくけこ”の”か”から始まる言葉をできるだけたくさんあげてください。 人の名前・地名などはいけません」
・最初の5秒間黙っている時は「例えば“かえる”」とヒントをだす。
・(開始から)10秒間黙っている時は「“か”から始まる言葉をなんでもよいから言ってみてください」と回 答を促す。その後、無言の状態が続いても声をかけずに(開始から)60秒間は待つ。
・制限時間は60秒間、時間内に10語言えたら終了。
・採点基準…同じ単語のくり返しは1語とカウントする
正答数 |
点数 |
10語以上 |
3点 |
6語以上 |
2点 |
3語以上 |
1点 |
2語以下 |
0点 |
3.行動プログラム【運動プログラミング】
前頭葉の中でも運動プログラムに関与する高次運動野の機能を見るものです。
指示①:「私がやることをよく見ていてください」
・検者の右手を、手のひらを上にして机の上に置き、
(1)自分の左手をグーにして、自分の右手のひらをたたく
(2)次にその左手をパーにして(手刀で)、自分の右手のひらをたたく
(3)最後に、左手をパーのままで、手のひら同士を合わせる
この3つの動作を1組とし、それを3回くり返す。
指示②:「では、右手を使って同じことをしてみましょう。まず、私と一緒にやります。次にひとりでやっていただきますのでよろしくお願いします。それでは一緒にやってみましょう」
・被験者と一緒に、(1)~(3)の連続動作を3回くり返す。
・指示②ができない場合でも指示③に進める。
指示③:「今度はひとりでやってみましょう」
・途中でやめた人には「もう少し続けてください」と連続動作をくり返すように促す。
・途中で間違えた時点で終了する。
結果 |
点数 |
ひとりで連続動作を6回以上できたとき |
3点 |
ひとりで連続動作を3回以上できたとき |
2点 |
一人ではできないが(指示②で)検者と一緒なら連続動作を3回できたとき |
1点 |
それ以外 |
0点 |
4.葛藤指示【干渉刺激に対する敏感性】
ルールに従った運動の発現は前頭葉の高次運動野と前頭前野内側面、どのように指をたたいたのかの短期記憶も必要になりますから前頭前野の機能を見ていると考えられます。
【 練 習 】
指示①:「次のゲームは2つの約束があります。 1つ目の約束は、私が指で1回ポンとたたいたら、続けて自分の指で2回ポンポンとたた いてください。わかりましたか?」
・ 被験者が指示を理解したかどうか確認して練習する。検者が指を動かしてからは教示をくり返さない。
・ ポン・ポン・ポン(1-1-1)とタップし、1回ごとに被験者に続けて指でタップさせる。 (正解は2-2-2)
・ 指示①ができなかったら指示②には進まずに0点とする。
指示②:「2つ目の約束は、私が指で2回ポンポンとたたいたら、自分の指で1回ポンとたたいてください」
・ 被験者が指示を理解したかどうか確認して練習する。指を動かしてからは教示をくり返さない。
・ ポンポン・ポンポン・ポンポン(2-2-2)と指でタップし、1回ごとに被験者に続けて指でタップさせる。 (正解は1-1-1)
・ 本番前に、約束の確認を求められても「思った通りでいいですよ」などと答え、約束の確認をしない。
・ 指示②ができなかったら指示③には進まずに0点とする。
【 本 番 】
指示③:「では今の2つの約束を使って、私に続いて、自分の指でたたいてください」
・ テスターは下記の回数を指でタップし、1回ごとに被験者に続けて指でタップさせる。
・ 途中で間違えてもやり直させず、最後まで課題を終わらせる。
1 - 1 - 2 - 1 - 2 - 2 - 2 - 1 - 1 - 2 (計10の連続動作)
(正答:2-2-1-2-1-1-1-2-2-1)
結果 |
点数 |
失敗なし |
3点 |
失敗2回まで |
2点 |
失敗3回以上 |
1点 |
テスターと同じ回数指でタップしてしまうことが続けて4回以上ある |
0点 |
全て1回(2回)たたく、ただたたいている |
0点 |
5.Go/No Go【抑制コントロール】
行動(指運動)を抑制する両側半球の前頭前野の機能を見ることになります。
【 練 習 】
指示① 「今度は約束が変わります。1つ目の約束は、私が指で1回ポンとたたいたら、 同じように自分の指で1回ポンとたたいてください」
・被験者が指示を理解したかどうか確認して練習する。検者が指を動かしてからは教示をくり返さない。
・ポン・ポン・ポン(1-1-1)とタップし、1回ごとに被験者に続けて指でタップさせる。(正解は1-1-1) ・指示①ができなかったら指示②には進まずに0点とする。
指示② 「2つ目の約束は、私が指で2回ポンポンとたたいたら、あなたはたたかないで ください」
・被験者が指示を理解したかどうか確認して練習する。指を動かしてからは教示をくり返さない。
・ポンポン・ポンポン・ポンポン(2-2-2)と指でタップする。 (正解は0-0-0)
・本番前に、約束の確認を求められても「思った通りでいいですよ」などと答え、約束の確認をしない。
・指示②ができなかったら指示③には進まずに0点とする。
【 本 番 】
指示③ 「では、今の2つの約束を使って、私に続いてやってみましょう」
・ 検者は下記の回数を指でタップし、1回ごとに被験者に続けて指でタップさせる。
・ 途中で間違えてもやり直させず、最後まで課題を終わらせる。 1 - 1 - 2 - 1 - 2 - 2 - 2 - 1 - 1 - 2
(正答:1-1-0-1-0-0-0-1-1-0)
結果 |
点数 |
失敗なし |
3点 |
失敗2回まで |
2点 |
失敗3回以上 |
1点 |
テスターと同じ回数指でタップしてしまうことが続けて4回以上ある |
0点 |
全て1回(2回)たたく、ただたたいている |
0点 |
6.把握行動【環境に対する非影響性】
行動の抑制機能を見る課題で、両側半球の前頭前野の機能を反映するものと考えられます。
指示①:「手のひらを上にして、両手を机の上にのせてください」
指示②:「私の手を握らないでください」
・テスターは、目をあわせず何も言わずに、自分の両手を被験者の手のそばによせ、手のひらを合わせるよう にそっとつけ、手を握らないでじっとしていられるか1~2秒間観察する。
・もし握ってしまった場合には、「私の手を握らないでください」と、もう一度言ってから、同じ動作をくり返す。
結果 |
点数 |
被験者がテスターの手を握らなかった場合 |
3点 |
被験者が躊躇して、どうしたらよいのか聞いた場合 |
2点 |
被験者が躊躇せずにテスターの手を握った場合 |
1点 |
注意されたあとにもテスターの手を握った場合 |
0点 |
FAB(前頭葉機能検査)のカットオフ値(平均スコア)
8歳以上の健常人の場合満点が可能とされています。
傷病別の平均スコア[標準偏差]
◎健康群:17.3[0.8]
◎パーキンソン群:15.9[3.8]
◎多系統萎縮症群:13.5[4.0]
◎大脳皮質基底核変性症群:11.0[3.7]
◎アルツハイマー群:12.6[3.7]
◎進行性核上麻痺群:8.5[3.4]
◎前頭側等頭型認知症群:7.7[4.2]
となっています。
カットオフ値は調べる限りは明確には定められていないようです