HDSR(長谷川式認知症スケール)とは
HDSRは長谷川式認知症スケールとも呼ばれ、認知症の診断のためのスクリーニングテストのひとつです。
精神科医の長谷川和夫氏が開発したため、長谷川式と名付けられています。
認知症の認知機能検査にはほかにもありますが、日本の医療現場ではこのHDSRかMMSE(ミニメンタルステート検査)が多く利用されています。
長谷川式認知症スケールは見当識、記憶など9項目からなり、30点満点で20点以下は認知症の疑いが高まるとされています。あくまでスクリーニング検査であり、点数が低いから認知症を確定させるものではありません。
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HDSR(長谷川式認知症スケール)の目的
記憶を中心とした高齢者の大まかな認知機能障害の有無をみつけだし、認知症を疑える高齢者を抽出することが目的になります。
質問項目は9 問と少ないため、10分程度で実施出来ます。
検査内容と質問の仕方、採点方法
( 設問1) 年齢
「お歳はおいくつですか?」
満年齢が正確にいえれば1 点を与え,2 年までの誤差は正答とみなす.
( 設問2) 日時の見当識
「今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか?」
まず「今日は何月何日ですか?」と聞き、「何曜日ですか?」「今年は何年ですか?」とゆっくり別々に聞くのも可。
年・月・日・曜日それぞれの正解に対して各1点。年については西暦も正解。
( 設問3) 場所の見当識
「私たちが今いる場所はどこですか?」
現在いる場所がどこなのかが本質的にとらえられていれば正答とみなし、自発的に答えられれば2 点を与える。
病院名や施設名、住所などが答えられなくてもよい。
もし正答が出てこない場合には、5 秒程度待ち、「ここは病院ですか?施設ですか?家ですか」のように問いかけ、正しく選択できれば1 点を与える。
( 設問4) 3 つの言葉の記銘
「これからいう3 つの言葉をいってみてください.後でまた聞きますのでよく覚えておいてください」
「桜・猫・電車」あるいは「梅・犬・自動車」のどちらかを使う。
一つの言葉に対して1 点を与える。
( 設問5) 計算問題
「100から7を順に引いてください」(100引く7は?それからまた7を引くと?と質問する)
「93から7を引くと?」のように検査者が最初の引き算の 答えを繰り返していってはならない。
各正解(2つの質問)に対して1点を与えるが、最初の引き算の答えが誤ったものであった場合にはそこで中止し、6の問題に進む。
( 設問6) 数字の逆唱
「私がこれから言う数字を逆から言ってください。」
(【1】6-8-2 【2】3-5-2-9)を逆に言ってもらう。
数字はつづけて言うのではなく、ゆっくりと約1秒くらいの間隔を置いて提示し、言い終わったところで逆から言ってもらう。
正解に対し各1点を与えるが、最初の逆唱に失敗した場合はそこで中止し、7の問題に進む。
( 設問7) 3 つの言葉の遅延再生
「先ほど覚えてもらった言葉をもう一度いってください」
自発的に答えられたものには2 点を与え、出てこなかった言葉に対して、それぞれ別々にヒントを与え、ヒントによって答えられたものには1 点を与える。
答えられない言葉があった場合には少し間隔をおいてからヒントを与え、正解が言えれば1点を与える。
ヒントの出し方は「桜」と「電車」が想起できなかった場合、「ひとつは植物でしたね」という形で与え、正解が言えれば1点。
その後も「もうひとつは乗り物がありましたね」というヒントを与える。
ヒントは被患者の反応を見ながらひとつずつ提示し、「植物と乗り物がありましたね」というようにつづけてヒントを出してはならない。
( 設問8) 5 つの物品記銘
「これから5 つの品物をお見せします。それを隠しますから、ここに何があったかをいってください。順番はどうでもかまいません」
あらかじめ用意した5つの物品をひとつずつ名前を言いながら並べて見せ、よく覚えるように教示する。
次にそれらを隠して「思い出す順番はどうでもよいのですが、今ここに何がありましたか?」とたずねる。
物品に特に指定はないが時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など、必ず相互に無関係なものを用いる。
正解に対し、各1点を与える。
( 設問9) 言葉の流ちょう性( 野菜の名前)
「知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。」
具体的な野菜の名前を記述し、重複した野菜の名前を言った場合は点数に加えない。
この問題は言語の流暢性をみる質問であるため、途中で言葉に詰まり約10秒程度待っても次の野菜の名前がでてこない場合にはそこでうち切る。
採点は5個までは0点であり、以後は6個=1点、7個=2点、8個=3点、9個=4点、10個以上=5点となる。
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HDSRのカットオフ値
最高得点は30 点満点であり,20 点以下を認知症の疑いあり、21 点以上を正常とする場合に、国内での感度は0.93、特異度は0.86とされています。
HDS-Rは認知症のスクリーニングを目的に作成されたものであり、得点による重症度分類はしません。
HDSRの実施上の注意点
・あくまで認知症のスクリーニング検査であるため、この結果のみで「認知症である」を決めることはできません。
他の検査や脳画像での前頭葉の萎縮などの所見を総合的に加味し判定されます。
・再検査する際は同じ時間と同じ場所で検査するようにします。
・なるべく個室や静かな場所、周りの目が気にならない様に環境が設定された場所で行ないます。
間違ったことを他の人に聞かれて落ち込むこともありえるためです。
・「ボケてるからこの検査をするのか」と自尊心を傷つける場合がありますので、実施する前に十分な説明を行ないます。