昔の工事現場で働いていて既往としてCOPDがある患者さんは回復期で働いていても多く経験します。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症例では、体動時の呼吸困難(息切れ)が生じますが、なかには体動時にSpO2の低下が著しくても呼吸困難の訴えが乏しい症例もいます。
息切れがないからと退院後のADL中に休息をとるなどせず、過負荷となり低酸素血症になってしまうことは避けたいものです。
そこで今回はCOPD患者さんのADL上での対策を解説します。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
肺気腫と慢性気管支炎は別々の疾患ではなく、個々の患者には両方の病変が同時に存在するため、COPDの臨床病名が使用されます。
COPDは気流閉塞(閉塞性換気障害)を特徴とする疾患です。そのため気流閉塞(閉塞性換気障害)を伴わない慢性気管支炎や肺気腫はCOPDに含まれないとされます。
"COPDにおける呼吸苦の評価
Hugh-Jones(ヒュージョーンズ)分類
Ⅰ度 |
同年齢の健康者と同様の労作ができ、歩行、階段の昇降も健康者並にできる。 |
Ⅱ度 |
同年齢の健康者と同様に歩行できるが、坂・階段の昇降は健康者並にはできない。 |
Ⅲ度 |
平地でさえ健康者並には歩けないが、自分のペースでなら1.6km(=1マイル)以上歩ける。 |
Ⅳ度 |
休みながらでなければ50m以上歩けない。 |
Ⅴ度 |
会話、着物の着脱にも息切れがする。息切れのため外出できない。 |
MRC息切れスケール
Grade 0 |
息切れを感じない |
Grade 1 |
強い労作で息切れを感じる |
Grade 2 |
平地を急ぎ足、緩やかな坂を上るとき息切れを感じる |
Grade 3 |
平地で同年齢の人より歩くのが遅い、自分のペースで歩いていても息継ぎのため休む |
Grade 4 |
約100ヤード(91m)歩行した後、息継ぎのため休む |
Grade 5 |
息切れが強く外出できない、更衣でも息切れがする |
COPDにおける動作時の低酸素血症を防ぐ方法
口すぼめ呼吸
口をすぼめて「ふー」「すー」という音をさせながら息を吐き、呼気にやや抵抗をかけます。
吸気と呼気の比は1:3~5程度になるようにし呼吸数10回/分程度を目標にしてゆっくり呼吸をしましょう。
・気道内圧の上昇による気道虚脱(閉塞)の防止
・呼吸数、分時換気量、機能的残気量の減少
・SpO2の増加
・肺局所不均等換気の改善
・死腔の減少
・呼気流速、非弾性抵抗が減少し呼吸仕事量が減少
・呼吸困難の減少、気管支攣縮による過換気の改善
・運動耐容能の改善
動作中に口すぼめ呼吸を行うことで、呼吸数を減少させ、運動耐容能 やADLが改善すると言われている。
しかし、口すぼめ呼吸は一過性の呼吸様式であり、長期効果についての報告は認められていません。
横隔膜呼吸(腹式呼吸)
吸気にてお腹が膨らむように息を吸い、呼気ではその膨らんだお腹がしぼむように息を吐きます。
・呼吸補助筋の活動(上部胸郭の動き)が制限され、横隔膜の活動(腹部の動き)が増加する。
・呼吸困難が軽減する。
・1回換気量が増加し、呼吸数は減少する。分時換気量は減少し、呼吸効率は改善する。
・酸素消費量が減少する。
・ガス交換が改善する。
・長期トレーニングにより最大換気量や肺活量が改善する。
・運動耐容能やADL遂行能力が改善する。
重症のCOPD症例では
横隔膜の平低化で可動域が少なく、この横隔膜呼吸をすることでかえって呼吸筋の過剰努力を伴ってしまう場合もあるため、その場合は口すぼめ呼吸のみの指導が良いでしょう。
横隔膜呼吸と口すぼめ呼吸を併用して行い、パルスオキシメータを使用しながら酸素飽和度が改善することを確認させながら行うとより理解しやすいです。
"動作時の呼吸苦の予防・呼吸法の応用
先ほど紹介した呼吸法を、歩行、階段昇降、入浴、洗髪時などの動作に応用することで呼吸苦をなるべく少なくすることができます。
呼吸と動作をを同調させることがポイントであり、ピラティスにおいても「屈曲伸展理論」という呼吸法を用い、屈曲の動きで息を吐き、伸展の動きで息を吸うようにします。
物を持ち上げるときにはしゃがんだところで息を吸い、立ち上がると同時に息を吐きます。
力をいれるときに息を吐くのは、腹部の筋も使うため体幹部の安定にもつながることが予想できます。
仮に、動作時に呼吸困難や酸素飽和度の低下がある場合には、一旦動作は中断し、呼吸、姿勢を整えてから動作を開始するようにするといいでしょう。