そもそも夜間痛とはどのようなものでしょうか? 一般的に肩関節周囲炎に多く見られるもので、寝ていることで痛みが強くなるという症状のことを言います。
肩関節周囲炎以外にも、腱板断裂でもその症状が見られることもあることから、
肩関節に炎症症状が起こっている人には発症することが予測されます。
今回は、肩関節の夜間痛がなぜ引き起こされるのかまとめてみました。
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肩の夜間痛
夜間にだけ、肩が痛くなるという特徴的な症状を呈する方が臨床ではおられますが、なぜ夜間にだけ肩が痛くなるのでしょうか?
そもそも、夜間痛は腱板断裂や肩関節周囲炎などの肩関節疾患において、特徴的な所見です。
夜間痛の原因は解明されていないですが、
①上腕骨内圧
②肩峰下圧
が関係していると考えられています。
"上腕骨内圧の上昇
夜間痛を呈する症例は骨内圧が上昇していることから、骨内圧が痛みの原因であると報告されています。
ではなぜ骨内圧が上昇するのでしょうか。
動脈は弾性が高いため外部からの圧迫で閉塞しませんが、静脈は弾性が低く、圧迫されると閉塞しやすい構造となっています。
そのため、肩関節周囲の組織(腱板や靭帯など)の浮腫や癒着などで血管が圧迫され、弾性の少ない静脈が閉塞し、
動脈による流入量と静脈による流出量のアンバランスにより骨内にうっ血が生じ、骨内圧が上昇し疼痛が発生していると考えられています。
では、その上腕骨の栄養血管はどこにあるのだろうか?
上腕骨頭は前・後上腕回旋動脈によって栄養されており、ほとんどは前上腕回旋動脈によって栄養されています。
骨頭の血液は前・後上腕回旋静脈から排泄されますが、上腕骨頚部後面にある栄養孔は小さく、そこを通過する血管も細くなります。
またこの栄養孔は棘下筋や小円筋の直下に位置しています。
そのため、もし棘下筋や小円筋のスパズムなどが生じると、この後上腕回旋静脈は圧迫を受けて閉塞し、上腕骨内圧の上昇し、夜間痛につながるのです。
患側を上にした側臥位をとっていたとしても、
肩関節が水平内転を強制され肩関節の外旋・伸展筋である棘下筋や小円筋が伸張され続け、血管の圧迫につながり夜間痛が生じることがあります。
側臥位で寝る際は、クッションを抱えて患側上肢が水平内転位を強制されないようなポジショニングをすると良いでしょう。
肩峰下圧の上昇による夜間痛
肩峰下圧は、烏口肩峰靭帯直下における圧のことであり、
この部位には、肩峰下滑液包や棘上筋・腱板疎部が収まっており、腱板断裂や肩峰下滑液包炎など炎症が起こりやすい部位でもあります。
肩峰下圧の上昇は、挙上によって上昇することは一般的ですが、
その他にも腱板炎による腫脹や烏口肩峰靭帯の肥厚、肩峰骨頭間距離の短縮、肩峰下滑液包炎、関節包内容量の減少などによって引き起こされます。
また、肩甲上腕関節の関節包は肩甲下筋腱下滑液包(Weitbrecht孔)と烏口突起下滑液包との交通があります。
肩関節の炎症により、肩甲上腕関節腔と上記の滑液包との交通が絶たれると、内圧調整がうまく行えず、関節腔圧の上昇につながります。
これらの要因で肩峰下圧が上昇すると、風船を膨らませたときに強度の弱い箇所がコブのように膨らんでしまうに、
強度の弱い腱板疎部が物理的に刺激されます。
炎症が起こっていると、サイトカインやブラジキニン・ヒスタミンなどの疼痛発生物質が生じ、
これらが侵害受容器に作用することで疼痛が生み出されますが、炎症では侵害受容器も感受性が高くなり、
閾値が低下していることから、弱い刺激でも痛みにつながるのです。
そのため、肩峰下圧が上昇することによっても、痛みは引き起こされます。
"臥位姿勢と痛みとの関係
夜間の就寝時に背臥位で寝たと仮定します。
肩甲骨はベッド面に接触し固定されて、肩甲骨が可動できない状況になります。
肩甲上腕関節は重力により伸展・外旋方向に落ち込んでいき、腱板疎部は伸張されてしまいます。
腱板疎部はもともと神経終末が多くあり、疼痛閾値が低いとされています。
そのため、肩関節周囲炎や腱板損傷などの肩の炎症で疼痛発生物質が多くなり侵害受容器感受性が高まっている場面では、
伸張などのわずかな刺激で疼痛が発生してしまうのです。
まとめ
肩関節周囲炎や腱板損傷などで肩の組織に炎症が起こっていると侵害受容器の感受性が高まってしまいます。
健常では痛みが起こらない、上肢の肢位での肩関節の内圧の変化だけで受容器を刺激し、疼痛が引き起こされます。
疼痛が生じないよう、肩関節が動かないよう肩関節周囲筋の緊張を高めて固定してしまい、筋スパズム→関節内圧上昇→疼痛→肩関節周囲筋の固定
という負の連鎖になってしまいます。
そうならないようにポジショニングをして痛みが少なく、生活できるように指導できるようにしていきたいです。