運動をした後の筋肉痛は、誰しもが経験があると思います。
また、患者さんでも「足が重だるい」「張って痛い感じがする」などの訴えを聞くことがあります。
そのときに「筋トレ頑張ったから筋肉痛になったんですね」と言ってしまうことも多いですが、
では筋肉痛はなぜ起きるんだろうとふと疑問に思ったので、調べてみました。
発生機序としては有名なのは2つあります。
①乳酸説
②筋の微細損傷説、です。
筋肉痛は乳酸が溜まるから?
筋収縮の結果、乳酸(乳酸イオンと水素イオン)が蓄積すると筋肉のphが低下します。
筋肉が酸性になることで、筋内にCa⁺の放出は妨げられる→筋が動きにくくなる→筋ポンプ作用低下→虚血状態になります。
虚血状態になることで代謝産物(乳酸を含む)を血流での除去が十分行われなくなり、痛覚受容器を刺激し痛みがでることが乳酸説です。
一方、最近では、血液中の乳酸値は運動後すぐに低下することがわかり、「乳酸」を原因とする説との矛盾が指摘されています。
"筋の微細損傷説
下り坂を走る、重い負荷を下ろすなどで筋が遠心性収縮を繰り返すと、運動により筋線維にミクロの損傷ができます。
損傷した筋繊維やその周辺組織には回復過程で炎症を起こし、
その際に発生する「痛み物質(ブラジキニン、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジンなど)」が筋膜を刺激するためと考えられています。
筋線維の傷害を反映しているクレアチンキナーゼ(CK)の血中濃度で増加し、筋線維は壊死し、
白血球の浸潤や腫脹などの炎症像が見られるため、このように考えられているのです。
しかし、現在ではどちらの説も矛盾を指摘されており、筋肉痛の解明には至っていないのです。
筋肉痛の定説への疑問
筋損傷が起こるような運動としては遠心性収縮を繰り返すような運動だとは思います。
例えば坂道を下るときなど。
しかし、筋損傷が起こらない負荷の運動でも筋肉痛を引き起こすこともあります。
また、「肩こり」のような筋肉痛に類似した現象も起こります。
さらに、筋肉痛は持続的に起こるのではなく、筋を圧迫したり、動かしたりしたときにのみ起こります。
これらは、定説ではうまく説明できません。
"
新たな仮説
動物実験にて、遠心性収縮を繰り返した後に、確かに筋肉痛が起こることがわかりました。
ところが、筋肉痛を示した動物の筋を調べると、筋線維の損傷も、炎症反応も起こっていない場合が多く見られました。
その代わりに、ブラジキニン、神経成長因子などの増加が見られ、
特に、神経成長因子の抗体を与えてそのはたらきをブロックすると、筋肉痛の発生が抑えられることなどもわかりました。
これらの結果に基づいて、次のような仮説を提唱されました。
①遠心性収縮によって筋線維からATPやアデノシンなどが漏出し、これらが血管内皮細胞からブラジキニンを分泌させる
②ブラジキニンは筋線維にはたらき、筋線維から神経成長因子を分泌させる
③神経成長因子は筋内の機械刺激受容器(圧受容器)にはたらき、閾値を低下させる
④その結果、通常では圧受容器を刺激しないような弱い筋収縮でも圧受容器が過敏に反応し、痛みが生じる。
まとめ
今回は3つの説を解説しました。乳酸説と筋損傷説は矛盾が指摘されましたが、3つめの説もまだまだこれから検証されていくことでしょう。
原因が解明されれば、新しい筋肉痛をはやく治す方法もでてくるかもしれないですね。
解明されることを楽しみに待ちましょう!!
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