統合失調症の原因、症状、正しい接し方のポイントを解説します



統合失調症の患者さんは周囲の人たちの言動にとても敏感になっているため、特に家族や周りの接し方が回復するポイントになり、また再発にも影響を与えます。適切に接していくために統合失調症について知っている必要もあるでしょう。

今回は、統合失調症の病態の理解、接し方のポイントについてまとめてみました。

統合失調症とは

統合失調症とは、思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力、すなわち統合する能力が長期間にわたって低下し、その経過中に幻覚、妄想、ひどくまとまりのない行動が見られる病態です

能力の低下は多くの場合、うつ病や引きこもり、適応障害などに見られるものと区別しにくいことがあり、確定診断は幻覚、妄想などの症状によって下されます。

多くの精神疾患と同じように慢性の経過をたどりやすく、社会復帰を促すために長期にわたる治療、支援が必要となります。

以前は「精神分裂病」が正式の病名でしたが、「統合失調症」へと名称変更されました。

"

統合失調症の患者数、性差、年齢

統合失調症の患者数

日本全国で74万人の方が統合失調症と診断され治療を受けているとされています。また、一生の間にこうした状態になる生涯罹患率は、およそ100人に1人とされています。

統合失調症の好発年齢

思春期から青年期に多いとされます。年齢でいうと、10歳代後半から30歳代になります。

中学生以下の発症は少なく、40歳以降にも減っていき、10歳代後半から20歳代にピークがあります。

 統合失調症の性差

発症の性差はほとんどないとされてきました。

しかし、最近の研究では男:女=1.4:1で男性に多いとされています。男性よりも女性の発症年齢は遅めです。

統合失調症の原因

統合失調症の原因は、今のところ明らかではありません。遺伝の影響を受けるともされますが、統合失調症の母親から生まれた子どものうち同じ病気を発症するのは約10%にすぎません。

進学・就職・独立・結婚などの思春期から青年期の自立関連のイベントがストレスとなり、発症のきっかけになることが多くみられます。ただ、それらは発症する誘因であって、原因ではないと考えられています。

"

統合失調症の症状

統合失調症の症状は、その特徴から大きく陽性と陰性の2つにわけることができます。

陽性症状は幻覚や妄想など統合失調症の目立った症状をいい、対照的に自閉(社会的引きこもり)や感情の平板化などの目立たない症状を陰性症状といいます。

陽性症状と陰性症状にはそれぞれ次のような具体的症状があげられます。

統合失調症の陽性症状

陽性症状はおもに急性期に生じます。

統合失調症では以下の3つの陽性症状が多く発現します。

・妄想

明らかに間違った考えや客観的に受け入れられない状況について、強い確信をもってしまうことです

ご本人による説明も他人には理解しがたいものが多く、矛盾点を指摘しても、ご本人はそれを受け入れることが困難になっています。

典型的な例としては「テレビやラジオで自分のことが話題になっている」「誰かにずっと監視されている」「自分の考えが外に漏れている」「誰かに操られている」などがあります。

 

・幻覚

実際には起こっていないことを、現実的な感覚として知覚してしまうことです

まわりに話している人がいないのに誰かの声が聞こえてくるといった「幻聴」がもっとも多く、ご本人の行動や思考に批判的な内容が多いため、その後の行動にも影響してきます。

また、実際には存在しないものが見えたり(幻視)、臭ったり(幻嗅)、感じたり(幻触)する場合もあります。

 

・思考障害

思考が混乱してしまい、考え方に一貫性がなくなってしまうことです。

そのため会話の内容に脈絡がなくなってしまい、ひどい場合には何を話しているのかわからなくなってしまうこともあります。

 

幻覚・妄想の特徴

統合失調症の幻覚や妄想には、2つの特徴があります。その特徴を知ると、幻覚や妄想に苦しむ気持ちが理解しやすくなります。

第1は、内容の特徴です

幻覚や妄想の主は他人で、その他人が自分に対して悪い働きかけをしてきます

つまり人間関係が主題となっています。

その内容は、大切に考えていること、劣等感を抱いていることなど、本人の価値感や関心と関連していることが多いようです。

このように幻覚や妄想の内容は、もともとは本人の気持ちや考えに由来するものです。

 

第2は、気分に及ぼす影響です

幻覚や妄想の多くは、患者さんにとっては真実のことと体験され、不安で恐ろしい気分を引き起こします

無視したり、ほうっておくことができず、いやおうなくその世界に引きずりこまれるように感じます。

場合によっては、幻聴や妄想に従った行動に走ってしまう場合もあります。

「本当の声ではない」「正しい考えではない」と説明されても、なかなか信じられません。

統合失調症の陰性症状

主に消耗期に生じます。

統合失調症の陰性症状は自信や自己効力感を奪い、根気や集中力が続かない、意欲がわかない、喜怒哀楽がはっきりしない、横になって過ごすことが多いなどの状態として現れるものがあります。

陰性症状は、なかなか症状として認知されづらく、怠けや努力不足とみられてしまう場合があります。  

陰性症状を「症状」と理解して対応しなかった場合は、生活上のさまざまな失敗や挫折を招くことが多く、生活をしていく自信を損ないやすくなります。

・感情の平板化(感情鈍麻)

ご本人の喜怒哀楽の表現が乏しくなるだけでなく、他者の感情表現に共感することも少なくなってしまうことです。

ご本人も感情を感じることができなくなり、周りで起こっていることに関心をもてなくなります。

・思考の貧困

会話をしていても、比喩などの抽象的ないい回しが使えなかったり、理解できなかったりします。

そのため、会話に使われる語彙が減ったり、無口になったりします。

・意欲の欠如

自発的に何かを行おうとする意欲が無くなってしまうことです。

また、いったん始めた行動を続けていくことができなくなります。

そのため、仕事や日常的な行動(入浴や着替えなど)に興味がもてなくなり、家族に促されないと行わなくなったりします。

・自閉(社会的引きこもり)

自分の世界に閉じこもり、他者とのコミュニケーションを取らなくなることです。

統合失調症の経過

病気の経過は、前兆期・急性期・休息期・回復期に分けてとらえるとわかりやすいでしょう。

ただし、これらは一方方向ではなく、休息期や回復期に病気を誘発するようなストレスがかかると、再び急性期の症状へと戻り、また休息期、回復期という経過をたどります。

そのため再発が繰り返されると、休息・回復に要する期間が長くなるといわれています。

 

前兆期

発症の前触れのような変化がみられることがあります。

眠れなくなったり、物音や光に敏感になったり、あせりの気持ちが強くなったりします。

これらは誰もがよく経験することです。その為、本人も周りの人も気づかないケースが多くあります。

急性期

前兆期に続いて現れるのが急性期です。

不安や緊張感、敏感さが極度に強まり、幻覚、妄想、興奮といった統合失調症特有の陽性症状が目立ちます

幻覚や妄想に襲われて頭の中が混乱し、周囲とのコミュニケーションがうまくとれなくなります。

休息期

急性期が過ぎると、感情の起伏がとぼしくなり、無気力で何もしなくなるなどの陰性症状が中心の休息期に入ります

いつも寝ていたり、引きこもったりします。この時期は不安定な精神状態にあり、ちょっとした刺激が誘因となって、急性期に逆戻りしやすい時期でもあります。

回復期

回復期を経て、安定を取り戻す時期です。

すっかり病前の状態へと戻れる場合もありますし、急性期の症状の一部が残存して取り除けない場合、回復期の元気がないような症状が続いてしまう場合などもあります。

こうした安定期が長く続き、リハビリテーションにより社会復帰を果たし、治癒へと向かうことが多いです。

予後

症状が現れてから薬物治療を開始するまでの期間(精神病未治療期間)が短いと予後がよいことが指摘されていますので、長期経過の面でも早期発見・早期治療が大切であることがわかります。

統合失調症の治療

統合失調症に対する治療として、薬物療法とリハビリテーションによる治療が基本になります。

どちらか片方で治療するのではなく、両方を組み合わせて治療を進めていきます。

薬物療法

統合失調症に対しては抗精神病薬が処方されます。

この抗精神病薬には2種類あり、昔から処方されてきた従来型抗精神病薬と、比較的新しい新規抗精神病薬があります。

従来型抗精神病薬は陽性症状の顕著な改善が得られますが、陰性症状を改善する効果はなく、自律神経障害などの副作用を引き起こす可能性があります。

新規抗精神病薬は陽性症状への効果に加え、陰性症状や認知機能の改善効果も望め、また副作用の発現も少なくなっています。

 

統合失調症は服薬をやめると再発したり、以前より症状が悪化したりする傾向にあります。

治療の期間には個人差があり、回復の仕方も人によって異なります。症状がよくなってきたからといって、自分の判断で勝手に薬を減らしたり、服薬を中断するのは危険です。

 

統合失調症のリハビリ

精神科リハビリテーションは、病気の症状で生じる「生活のしづらさ」を改善し、スムーズに安定した生活を送れるようにすることを目的に行います。

具体的には、デイケア、作業療法、SST(生活技能訓練)、心理教育などのプログラムがあり、医療機関や地域の精神保健福祉センター、自立訓練事業所などで実施されています。

・作業療法

作業療法士の指導のもと、手工芸、パソコン、体操、園芸、音楽、書道、スポーツなどの軽作業を通じて、楽しみや達成感、充実感といった感情の回復を図ります。

これにより、日常生活や社会参加に必要な能力の回復・維持が期待できます。

・SST(社会生活技能訓練:social skils training)

対人関係を良好に維持する方法や、病気や薬との付き合い方、ストレスへの対処法などのスキルを学ぶことで自信を回復し、生活の質を向上させるためのトレーニングです。

「体調がすぐれないことを周囲の人に伝えるにはどうしたらいい?」「薬で困っていることを主治医に説明するには…?」といった、日常生活の身近なテーマを設定してロールプレイング形式で学んだりします。

統合失調症の方との接し方

統合失調症は、特に家族や周りの接し方が回復するポイントになり、また、再発にも影響を与えます。

統合失調症の患者さんは周囲の人たちの言動にとても敏感になっています

そのため批判したり、大げさに態度を変えたりして、刺激を与えてしまうと再発したり、悪化してしまうこともあります。

周囲の人たちの感情の表し方(表情、口調、態度など)はその字のとおり「感情表出」といい、英語のExpressed Emotionの頭文字をとってEEとも呼ばれます。

統合失調症の再発や悪化に影響を与える要因としては強い感情表出ですが、これを「高EE」と呼びます。

高EEとしては主に3つのタイプがあります。

 

1.批判的な感情表出

「何もしないでごろごろしている」「いい年をして仕事もしない」などと、患者さんに対して不満や文句をいうことです。

2.敵意のある感情表出

「いっそ、この子がいなければいい」「一発殴ってやりたい」「この人のせいで私の人生はだいなしになった」などの敵対的な感情をぶつけることです。

3.情緒的に巻き込まれている感情表出

「この子は病人だから私がいてあげないといけない」「この人の気持ちは私にしかわからない」など過保護や過干渉になってしまうことです。すこしのことで泣き崩れたり、冷静さを失うようなことも含まれます。

 

以上のような高EEを有した接し方をするご家族では、患者さんの再発率が高く、EEレベルが低い家族では再発率が低いと報告されています。

しかし、「高EEじゃない=甘やかす、優しすぎる」ではないことには注意が必要です。

患者さんに「統合失調症になってしまったから周囲が優しく接してくれる、周りに気を遣わせてしまっている」と思わせてしまい、再発や悪化につながってしまいます。

 

高EEの言動には注意し、それ以外は普段通りの接し方で良いとと思います。

統合失調症の症状はゆっくりとしか治らないので、本人のペースに合わせて長期的にあせらないことが大切です。

1人で本人と向き合うのではなく、家族や周りのみんなで協力しながら支えていくことが重要です。