うつ病の方と接するために 原因、症状、治療法を知ろう



うつ病の方にとって、特に家族や周りの接し方が回復するポイントになり、また再発にも影響を与えます。適切に接していくためにうつ病について知っている必要もあるでしょう。

今回は、うつ病の病態、原因、治療についてまとめてみました。

うつ病の方との接し方の記事はこちら👇

うつ病とは

私たちは、生活のなかのさまざまな出来事が原因で気持ちが落ち込んだり、憂うつな気分になったりすることがあります。しかし、数日もすると落ち込みや憂うつな気分から回復して、また元気を取り戻せます。

しかし、うつ病では1日中気持ちが落ち込んだままで、いつまでたっても気分が回復せず、強い憂うつ感が長く続きます。このため、普段どおりの生活や仕事を続けることが困難になってしまいます。

うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態です。

脳がうまく働いてくれないので、ものの見方が否定的になり、自分がダメな人間だと感じてしまいます。

そのため普段なら乗り越えられるストレスも、よりつらく感じられるという、悪循環が起きてきます。早めに治療を始めるほど、回復も早いといわれていますので、無理せず早めに専門機関に相談すること、そしてゆっくり休養をとることが大切になります。

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うつ病の原因

うつ病は、まだわからないことが多い病気です。脳の神経の情報を伝達する物質の量が減るなど脳の機能に異常が生じていると同時に、その人がもともともっているうつ病になりやすい性質と、ストレスや体の病気、環境の変化など、生活の中のさまざまな要因が重なって発病すると考えられています。

 

うつ病が起こりやすい性格

うつ病には、うつ病になりやすい病前性格が指摘されています。

典型的なうつ病の患者さんに多い病前性格として、「循環気質」「メランコリー親和型人格」や「執着気質」などが挙げられます。

・循環気質

ドイツの精神医学者クレッチマーの分類による性格類型のひとつです。陽気で活動的な躁の状態、憂鬱で優柔不断な鬱の状態の2つの気分が交互に現れ、社交的、親切、気さく、思いやりがあるなどといった特徴を持っています。

陽気な側面を持っている反面、優柔不断で八方美人的性格のため、決断力が弱く板挟み状態になってうつ状態に陥ることも多いと言われています。

・メランコニー親和型

ドイツの精神科医であるテレンバッハが提唱した概念です。ルールや秩序を守る、几帳面、完璧主義で責任感が強い、まわりとの衝突を避け他者に対し律儀で誠実であるという特徴を持っています。 完璧主義なため仕事がうまくいかないとストレスを溜め込んだり、他人優先で自分を犠牲にしがちなため、うつ病になりやすいと言われています。

・執着気質

下田光造が提唱した性格です。この性格の基礎には一度起こった感情が長く持続するという感情の経過の異常があります。仕事熱心で徹底的に物事を遂行する、正直で几帳面、正義感が強いといった特徴を持っています。仕事などものごとを頼まれると断ることができず、結果として何もかも一人でかかえ込んでしまうため、うつ病になりやすいと言われています。

 

うつ病の誘因となるストレス

うつ病を発症させる大きな誘因のひとつにストレスがあります。ストレスが大きくて強いほど、うつ病を引き起こす危険性が高くなります。

ストレスが大きい順に並べると

  • 配偶者の死
  • 倒産・失業
  • 離婚
  • 夫婦の別居
  • 仕事上のミス
  • 単身赴任
  • 転勤・配置転換
  • 労働条件の変化
  • 上司とのトラブル
  • 結婚

など

人によってストレスへの耐性や感じ方は異なりますが、ストレスの大きい順に並べるとこのようになります。

 

うつ病の誘因となる病気や薬

病気になったというショックで気分が落ち込むことも原因ですが、内分泌や代謝などの異常によっても引き起こされます。

癌はいまでは治療法が進歩してきたのですが、昔は不治の病とされていたため、気分が落ち込み、不安や絶望感に苛まれ、癌患者さんの25%がうつ病を発症したとする報告もされていました。

また、薬のなかには副作用として抑うつ症状が現れるものがあります。降圧剤、抗がん薬、ステロイド、抗潰瘍薬などが、うつ病を引き起こすことがあります。

パーキンソン病の精神症候としはうつ病が最も多いようです。

うつ病の症状

うつ病の症状として、感情・気分、意欲、思考などの障害を示す精神症状とともに、不眠、食欲不振などのさまざまな身体症状を示す病気です。また、ある人では意欲に対する障害が強く、別の人では感情・気分の障害が強いということもおこってきますし、精神症状よりも強く身体症状が訴えられるうつ病もあります。

これらの症状が、1日の中で時間とともに変化する(日内変動)のも、うつ病の特徴です。多くの場合は、朝が最も悪く、夕方にかけて回復していきます。

 

精神症状

・感情

気分が憂うつになる、理由もなく悲しい・寂しい、自分がダメな存在だと感じる、不安や焦りを感じ、イライラする、無感動になる、死にたいと思うなど。

・意欲

何をするのもおっくう、行動力や集中力がなくなる、人と会ったり話したりするのが面倒になる、趣味などにもやる気が起きないなど。

・思考

頭がさえない、考えがまとまらない、集中力がなくなる、決断力や判断力が低下する、反応が遅くなるなど。 時には、妄想(もうそう:不治の病にかかってしまった、破産してもうやっていけない、などの現実とは異なる思い込み)が現れることもあります。

 

身体症状

・睡眠の異常(不眠または睡眠過多)

・食欲の低下または増加

・疲労、倦怠感

・ホルモン系の異常…月経の不順、性欲の低下、勃起の障害

・その他の症状…頭痛(すっきりしない鈍い痛み)、頭重。肩、腰、背中などの痛み

 

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うつ病の検査と診断

うつ病に特徴的な症状が複数認められると、うつ病と診断されます。医療面接を行い、症状、ストレスになるような出来事、他の病気、自分の性格、家族のことなどを詳しく聞きます。また、患者さん本人からだけでなく、家族からも話を聞くことがあります。これらの情報を総合して、医師はうつ病の診断を行います。

うつ病の治療

うつ病の治療の基本は、十分な休養によって心と体の疲れをとることと、薬によって神経伝達物質の異常を改善することです。さらに、考え方などを見直す精神療法を組み合わせることもあります。

十分な休養

うつ病の治療ではくすりと並行して、十分な休養をとることが大切です。責任感の強い患者さんは、仕事を休んだり、家事をやらないことは悪いことだと思い、なかなか休みをとろうとしません。

しかし、精神的にも身体的にもストレスがかかった状態では、十分な治療効果は期待できません。ときには休職という選択が必要なこともあります。医師が、患者さんに休職が必要だと判断した場合は、どの程度の期間必要か、全体的な見通しについてご家族が医師から説明を受け、「今は休んでほしい」という思いを患者さんに伝えてあげてください。

休むことが悪いことだと思っている患者さんにとって、ご家族から「休んでほしい」といってもらえることは、こころの負担を軽くします。 女性の場合、家族の食事、掃除、洗濯、子どものことなど、何かと気になってゆっくり休むことができません。

そんなときには、入院というのも1つの選択です。患者さんに抗うつ薬の効果が認められ、症状が安定するまでの間、入院して治療以外に何もしなくてもよい環境をつくるという選択もあります。

薬物療法

抗うつ薬が薬物療法の中心となります。抗うつ薬は、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンという物質のはたらきを高めて、抑うつ気分を取り除いて気分を高め、意欲を出させ、不安や緊張、焦燥感を取り除く、といった効果を現します。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系、非三環系といったタイプがあり、症状や状態によって使い分けます。

服薬を始めてすぐに効果が現れるわけではなく、一般に1週間から3週間の期間が必要です。通常、治療を始めてから2カ月から半年くらいである程度よくなりますが、症状が改善したあとも服薬を続けることが必要です

 

精神療法(心理的治療)

うつ病に対する精神療法としては、支持的精神療法、認知療法、対人関係療法などがあります。支持的精神療法は一般のうつ病の診療で行われるものですが、認知療法や対人関係療法は専門の精神科医や臨床心理士のもとで行われます。

 

支持的精神療法

感情をあえて掘り起こすことなく不安を軽減することを主眼とした治療法で、日常のうつ病診療において一般的に行われている精神療法です。本人が抱えているつらい症状や悩みを医師に話し、共感を示してもらうことで感情の発散が促されて現実にあった希望と安心感を得ることができ、うつ病の人が抱きやすい罪悪感や自責の念を和らげる効果があります。また、医師からうつ病についての詳しい説明をしてもらうことで病気についての理解が深まり、ときに助言や励ましを行ってもらうことで回復への意欲をはぐくむことができます。

 

認知行動療法

「認知」とは、物事に対する「受け止め方」や「考え方」のことです。うつ病になると、どうしても物事を悲観的に受け止めるようになります。その原因は、「認知の歪み」によるもので、その好ましくない思考パターンを修正していくのが「認知行動療法」です。

一般にストレスが長期間続くと、思考力や判断力は鈍り、物事を悲観的・否定的に考えるようになります。

このマイナス思考が、気分を落ち込ませ、その気分の落ち込みがさらに悲観的・否定的な考えを助長させて、不安感や絶望感を生み出していくのです。

人間の感情というのは、認知の仕方によって生じるものですから、マイナス思考という歪んだ認知を、プラス思考の方向に修正していけば、心から沸き上がる感情はおのずと変化して、楽観的・肯定的に物事を受け止めることができます。認知行動療法とは、心理面に働きかける治療法のことです。

対人関係療法

対人関係療法は、対人関係における混乱がうつ病の症状に大きな影響を及ぼすという考えに基づいて、うつ病の人が抱える対人関係の問題の解決を図れるようにすることで症状の改善を目指します。

自分にとって最もストレスとなっている人間関係を洗い出し、どうすればその人とうまくやっていけるか、トラブルを回避できるかということを具体的に考えて、対処するスキルを学びます。

「体調がすぐれないことを周囲の人に伝えるにはどうしたらいい?」「上司にこう言われたらなんて返答する?」といった、日常生活の身近なテーマを設定してロールプレイング形式で学んだりします。また、対人関係のトラブルや人付き合い技術のなさといった対人コミュニケーション的な解決のほか、大切な人の喪失体験などへの対処も含まれます。