片麻痺と肩関節亜脱臼
脳卒中片麻痺患者の肩関節痛は、片麻痺に最も多い運動器合併症といえます。
その中で、特徴的なものとして肩関節の亜脱臼による肩の痛みがあります。
頻度としては片麻痺の患者のおよそ70%に合併するとされています。
肩甲上腕関節の構造として関節窩は浅く、筋肉と靭帯で支持されているため、球関節としてとても大きな可動域がある反面、とても不安定な関節です。
片麻痺によって肩関節周囲筋が弛緩して機能不全に陥ると、上腕骨頭を関節窩に牽引することができず、
腕の重さで重力によって上腕骨頭が関節窩から引き離されてしまい亜脱臼となってしまいます。
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片麻痺の亜脱臼と痛みの関係
肩関節が亜脱臼しているからといって必ずしも疼痛が発生するわけではありません。
・亜脱臼して肩関節のアライメントが崩れている状態で上腕挙上すると棘上筋が大結節と肩峰に挟まれて損傷したり、
・上腕骨が関節窩から持続的に引き離されると、腱板筋が持続的に伸張され虚血状態になり炎症が起きたり、
・寝返りや起き上がりで患側上肢の管理を忘れていて、肩が過度に伸展したりすることで、靭帯や筋に過度な伸張ストレスが加わって損傷したり、
などの理由により肩関節亜脱臼が痛みにつながるのです。
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片麻痺での肩関節亜脱臼の原因
肩関節が亜脱臼する大きな原因を4つ挙げてみました。
回旋筋腱板・三角筋の機能不全
肩の回旋筋腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)は上腕骨頭を包むように張り付いて上腕骨頭を関節窩に押し当ててパックしてくれています。
しかし、麻痺によって筋が弛緩し、特に棘上筋と三角筋の機能不全によって上腕骨頭を関節窩に引き寄せられなくなります。
肩甲骨の下方回旋
人間は本来、肩甲骨の関節窩はやや上方に向いており(上方傾斜)、このことにより上腕骨頭の下方への脱臼を防止するような構造になっている。
しかし、麻痺によって僧帽筋などの肩甲骨上方回旋に作用する筋の機能不全になると、肩甲骨が下方回旋してしまい関節窩が下方を向いてしまう。
これによって重力で上腕骨頭が関節窩から引き離されやすいアライメントになる。
関節包・靭帯の持続的な伸張
亜脱臼によって関節包や靭帯が伸張されます。
これが長時間におよぶと伸張されたままで張力を発揮できなくなってしまい、
不可逆的になってしまいます。(輪ゴムを伸ばしたままにしておくと、ダルンダルンになってしまうような感じです)
上腕二頭筋や大胸筋の筋緊張亢進で骨頭が前方に偏倚
上腕二頭筋や大胸筋は大きい筋であり、連合反応や共同運動パターンですぐに収縮が入ってしまいます。
上腕骨の前方に位置する筋であり、腱板筋などの筋が骨頭を安定させられてない状況であれば、
これらの筋の緊張の亢進や収縮で骨頭が前方に引っ張られてしまいます。
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片麻痺での肩関節亜脱臼の治療と予防
機能的電気刺激(FES)
棘上筋・三角筋などの筋にFESを実施し亜脱臼の改善が認められるが効果は持続しないとされています。
しかし、FESと肩関節の運動を組み合わせることで亜脱臼が改善したとする報告もあるようです。
ポジショニング
車椅子のアームレスト・アームトレイ、車椅子テーブルを使用して麻痺側上肢を適切なアライメントでポジショニングすることが重要になります。
良肢位にポジショニングできると、内旋拘縮の予防、浮腫の改善、亜脱臼の予防・改善に効果があるとされます。
また、麻痺側上肢が患者の見える位置にあるため、麻痺側身体の認知や注意喚起につながることも考えられます。
スリングの使用
スリングは亜脱臼の整復というよりは、上腕骨頭のそれ以上の下方牽引の防止が目的になるのではないかと思っています。
また、半側空間無視による麻痺側上肢の管理忘れや介護時の管理不十分による二次的なストレスがかからないようにスリングを使用するのが適当かと思われます。
スリング使用の弊害
・肩関節を内旋・屈曲・肘屈曲位での固定になり麻痺側上肢の屈曲パターン(亢進)の助長につながる
・上肢の運動や感覚入力を阻害してしまう
・上肢を隠してしまい視野に入らず、麻痺側身体の認知の低下、ボディーイメージの低下