変形性膝関節症(膝OA)とリハビリ 病態から運動療法の目的、効果は?



変形性膝関節症は、読んで字の通り膝関節に発症する変形性関節症です。

回復期で勤めているかたであればほぼ毎日目にしているのではないでしょうか。

今回はこの変形性膝関節症について、病態、原因、進行、治療、リハビリなどをまとめてみました。

膝人工関節TKAのインプラントについての記事はこちら

変形性膝関節症(膝OA)のリハビリのために病態を知ろう

膝関節の関節軟骨がすり減ったり、半月板に変性や断裂がおこったことにより、

関節内に炎症 が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じる病気です。

男女比は1:4で、40歳以降の中高年の女性に多くみられ、整形外科的疾患での有病率は腰痛に次いで2番目に多い疾患です。

初期では立ち上がり、歩きはじめなど動作の開始時のみに痛み、休めば痛みがとれますが、

中期では階段の昇降が困難となり末期になると、安静時にも痛みがとれず、変形が目立ち、膝がピンと伸びず歩行が困難になります。

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変形性膝関節症(膝OA)の原因

変形性膝関節症の原因は、原因不明の1次性変形性膝関節症と、原因のはっきりした2次性変形性膝関節症とに分類されます。

「変形性股関節症」では2次性の原因による発症が多かったですが、「変形性膝関節症」では1次性のもが多いです。

1次性変形性膝関節症

変形性膝関節症の多くは、加齢変化と筋力低下や肥満、無理な動作などの多くの要 因が絡み合って膝への負担となり、

膝の関節軟骨がすり減って炎症を起こして発症 します。

 

2次性変形性膝関節症

2次性では片側性に生じることが多いです。

・膝周辺の骨折

・半月板損傷

・膝蓋骨脱臼

・膝関節周囲の靭帯損傷

PCL(後十字靭帯)損傷に関する記事はこちら

変形性膝関節症(膝OA)の症状

疼痛は徐々に発生し、増悪します。運動時痛・荷重時痛が主ですが、滑膜炎を起こし、

関節液が貯留することで腫脹が生じ安静時痛もみられるようになります。

運動制限、大腿四頭筋の萎縮、しばしば膝内反変形を伴います。

また、膝関節不安定性による外側方動揺や、大腿四頭筋の筋力低下により片脚起立時に膝折れする前方動揺を生じます。

ラテラルスラストのリハビリの記事はこちら

 

初期

起床時の第一歩の「膝の違和感」が最も早く現れる症状です。

この段階では、痛みは動作時痛のみで、一時的なためしばらく休むと痛みがなくなる場合がほとんどです。

一時的な痛みだけで本格的な変形性膝関節症にならずに軽快する場合もあります。

中期

痛みの頻度が多くなり、膝関節の関節可動域が制限されはじめ、正座やしゃがむ等の動作が苦痛になってきます。

階段もつらく、特に下りがつらくなります。

また、膝関節の炎症から膝関節周囲の腫脹・熱感が出現してきます。

膝の変形が目立つようになり、膝関節運動時にギシギシなどの音がなったり、このギシギシ感を自覚するようになります。

末期

日常生活に支障が起こるほどの痛みになります。

膝関節可動域も中期よりもさらに制限され、ギシギシする音もギシギシ感もさらに強くなります。

そのため、歩行や階段昇降が苦痛になり活動範囲が狭まります。

骨の変形もかなり進み、内反膝変形やラテラルスラストなどもみられます

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変形性膝関節症(膝OA)の検査、診断

・問診

いつ、どのときに、どこが、どのくらい痛むかなどの痛みの確認や、スポーツ歴や仕事、膝の靭帯損傷などの既往があるかを確認します。

・視診、触診

アライメントや圧痛、運動時痛、可動域の確認をします。

・X線、CT

膝関節内側裂隙の狭小化(正常な膝関節裂隙は5~10mm)、関節面の破壊の程度、骨棘形成、FTA(大腿脛骨角)の増加(正常は174°程度)

・関節液検査

膝に炎症が起きて腫れている場合、注射器で関節液を抜き取りその性状により病気 の判定をします。

変形性膝関節症では、黄色透明の関節液が排出されますが、リウ マチ等の関節炎では、黄色混濁した関節液が出ますので鑑別になります。

・血液検査

関節リウマチではCRP(炎症反応)やリウマチ因子が陽性となることが多く、一方、 変形性膝関節症では通常、CRPやリウマチ因子は陰性です。

変形性膝関節症(膝OA)の治療

保存療法では、薬物療法、物理療法、装具療法、 運動療法の4つが基本です。

これらの治療で痛みが緩和されずに生活に支障をきた す場合には観血的治療もあります。

 

保存療法

薬物療法

・非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)

・短時間で作用するボルタレン、ロキソニンなどの薬と  作用するまでは長いが効果が持続するモービックなどの薬

・ヒアルロン酸の関節注射:(アルツ、スベニールなど)

ヒアルロ ン酸には、関節軟骨の被膜保護、潤滑改善、軟骨修復、消炎鎮痛作用があります。

週に1回づつ5回位で改善する人が多く、疼痛改善率がかなり高いです。副作用はほと んどありません。

・ステロイドの注入:(デカドロン、ケナコルトなど)

抗炎症作用による強い鎮痛作用をもちます。

ヒアルロン酸でも効果が見られない場 合や痛みがひどい急性期に使うと効果的です。

ただし、繰り返して使うと軟骨破壊 が進むという副作用があります。

 

物理療法

・温熱療法

・電気刺激療法

 

装具療法

装具は膝にかかる負担を軽減させて関節を安定化させます。

 

運動療法

筋力増強訓練や関節可動域訓練などが行われます。

観血的治療

保存療法でも症状が軽減しない場合や、症状が進行している場合は、手術療法が検討されます。

手術療法には、大きく3つの方法があります。

・脛骨高位骨切り術

内反、外反変形を伴うときに変形を矯正し、荷重を均等化します。術後に免荷期間が必要なため高齢者には向かないとされます。

・関節鏡視下手術

内視鏡を関節に入れ、半月板の傷んだ部分を切除したり、はがれた軟骨のかけらや骨棘を除去する方法です。

・人工膝関節置換術

関節が大きく変形し、痛みが強い場合には人工の膝関節に置き換える方法がとられます。

変形性膝関節症(膝OA)に対するリハビリ

変形性膝関節症に対して、筋力増強訓練や関節可動域訓練、また杖や足底板、

膝サポーターなどの装具療法、膝関節に負担がかからないよう動作を工夫する動作訓練や生活指導などが変形性膝関節症のリハビリとして行われます。

関連記事はこちら大腿の筋の筋間のリリースで膝の動きがスムーズになります。

筋力増強訓練

変形性膝関節症では、疼痛→活動低下→筋委縮→膝関節の安定性の低下→疼痛のような悪循環になりやすいです。

この悪循環を断ち切るためにも筋力増強運動が重要になります。

Fisherらは3か月の理学療法において膝関節周囲筋の筋力の改善が、男女でそれぞれ大腿四頭筋が8%と24%、

ハムストリングスで9%と19%増大し、同時に階段昇降・椅子からの立ち上がり・歩行速度の改善がみられ、

歩行時の疼痛の改善に至っており、筋力増強訓練の重要性を示しています。

関節可動域訓練

変形性膝関節症では、膝の伸展が制限されやすくなります。

膝関節の伸展が制限されると、歩行時や立位時の内側広筋の筋出力が低下し膝の不安定性につながります

膝蓋骨の可動性低下や大腿脛骨関節での副運動の低下が膝関節の可動域制限につながるため、

筋のストレッチだけではなくモビライゼーションを組み合わせたROM運動を行う必要があります。

関連記事はこちら。関節可動域訓練ではエンドフィールも感じながら行うと制限因子の特定につながります。

装具療法

装具は膝にかかる負担を軽減させて関節を安定化させることです。装具には次の ようなものがあります。

・サポーター

サポーター自体には膝関節の負担 の軽減や関節の安定化作用は期待できません。

装着したときに感ずる安定感と関節 の保温が主な効果です。さらに安定感を高める支柱付きサポーターもあります。

・足底板

外側楔状足底板は靴の中に入れたり足底につけて、内反膝を若干矯正することにより、

膝の内側にかかる負担を減らして痛みを和らげることを目的としています。

変形性 膝関節症の初期から中期で変形がそれほど強くない時期に有効です。

・杖

体重を分散させて歩行時の膝の痛みが緩和されます。また、転倒予防にもなります。

杖には松葉杖やさまざまな種類のものがありますが、日常生活ではT字杖がよく使 用されます。

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