PCL(後十字靭帯)損傷のリハビリを解説!原因、症状、手術【理学療法】



PCL(後十字靭帯)の役割

 PCLは膝関節の安定機構として重要な働きをしています。

 

PCLの緊張度合いに関しては、膝関節最大伸展位で高く、膝関節屈曲30°まででその緊張度は低下し、

さらに屈曲するとまた緊張度は高くなっていくという特徴があります。

 

そのためPCLは膝関節の過伸展と膝屈曲位での脛骨の後方落ち込みを制御する役割があることがわかります。

PCLは膝の深屈曲にも関与しています。深屈曲の記事はこちら

 

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PCL損傷の受傷機転・原因

出典:https://ar-ex.jp/nagano

 

PCL損傷の受傷機転は、

 

・交通事故でダッシュボードが脛骨に衝突

・スポーツで強い力が脛に衝突

・転倒してコンクリートなどに脛からぶつける

 

 

などのように、前方から脛骨を後方に押し込むような強い力が加わることで受傷します。

特に、膝関節90°屈曲位にて前方より脛骨粗面付近に直達外力を受けて受傷することが多いとされます。

 

PCL損傷の症状

・関節血症

・脛骨に後方ストレスをかけると膝に激痛

・膝窩部の皮下出血や圧痛

 

慢性期では症状はないことが多いが、運動時や階段昇降で膝屈曲での不安定性や、膝蓋骨周辺の痛みが起こります。

 

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PCLの理学検査

Sagging徴候(gravityテスト)

両膝立臥位でリラックスさせると、後十字靭帯損傷膝は脛骨(脛骨粗面)が後方へ落ち込むのを確認できます。

ACL損傷ではPCL損傷の逆で脛骨が前方に引き出されたときに抵抗感が少なく前方に移動してしまいます。

 

PCL損傷の治療方法

 保存療法と手術療法(靭帯再建術)に分けられます。

 保存療法

半月損傷や軟骨損傷の合併がないと確認できたPCL単独損傷膝では、保存療法を第一選択とします。

受傷後2~3ヶ月で回復度合いをみながら一部競技復帰をしていきます。

 

 手術療法(靭帯再建術)

保存療法に抵抗し不安定性が残存する場合や他の靭帯損傷が合併する場合は再建術を考慮します。

PCL再建術後、再建した靭帯の強度が回復するまでの期間は膝関節の深屈曲と脛骨を後方に引っ張る作用があるハムストリングスの筋力強化は制限します

 

術後5ヶ月後から徐々にアスレチックトレーニングを取り入れていき、術後8ヶ月程に競技の完全復帰を目指します。

 

保存療法と再建術どちらがよいのか

 PCL損傷では保存療法が第一選択となっているが、関節症性変化が起こる可能性が高いので、

再建術を行ったほうがよいのではないかとも思ってしまいます。

 

 再建術を行った場合、保存療法よりも変形性膝関節症になる可能性は低いと言われています。

 

しかし、再建術を行っても後方へずれる状態が残ることが多いという報告もまたあります。

 

文献により術後の経時的経過で差があり、再建術の効果には正確な結果が出ていないため

 

再建術を肯定することも否定することもできません。

 

このような状況であるため、手術を受けるリスクがない保存療法の選択が多くなっているのだと思います。

 

変形性膝関節の予防

 PCL損傷では、予後に膝の不安定性や疼痛、最終的には変形性膝関節症となる可能性が高いです。

原因は

 

・靭帯損傷により膝のアライメントがくずれ、関節に負担がかかり軟骨にかかる圧が不均衡になることで軟骨損傷が生じる。

・損傷することにより関節の適合性が悪くなる。

・このような環境下では生体反応として骨を増殖させて関節の適合性を良くして安定性を高くしようと骨棘を形成したり、関節を固くし(拘縮)なおも関節の安定性図る

 

 

などの生体の反応により変形性膝関節症になるのです。

 

 

 

 関節の適合性が悪くなるのは、PCL損傷により脛骨の後方への移動を防ぐことができないためです

 

そのため脛骨が後方へ動くのを防ぐ働きのある大腿四頭筋を鍛えることがポイントとなります。

筋の走行から、後十字靭帯と同じはたらき(脛骨が大腿骨に対して落ち込むのを防ぐ)が期待できるためです。

 

PCLのリハビリ

PCLのリハビリのポイント・原則

 

・PCL損傷による脛骨の後方不安定性に対して、後方不安定性の抑制作用のある大腿四頭筋の筋力強化が重要

・ハムストリングスは脛骨を後方へ引っ張るため、ハムストリングスの筋力強化は慎重に行う。

・PCLが切離されていると、下腿の後方移動量は膝関節を屈曲するほど増大していき、屈曲75°~90°で正常の3倍となる。

・膝の完全屈曲は数か月は避ける

・炎症が沈静化するまでは非荷重とし、炎症が落ち着いてきたら徐々に荷重を増やしていく

 

保存療法後のリハビリ

●急性期

炎症に対し:急性期の炎症がある時期はRICE処置

荷重:炎症がある時期は非荷重

筋力訓練:大腿四頭筋の筋力訓練を積極的に行う。

可動域訓練:膝蓋骨モビライゼーションで膝蓋骨の可動性を確保しておく。

      膝の他動屈曲は脛骨の後方偏倚に注意して行う。

RICE治療に関わる寒冷療法の記事はこちら

●回復期

荷重:痛みをみながら徐々に漸増させていく

筋力訓練:ハムストリングスの強化は屈曲位では脛骨の後方偏倚を助長させる危険があるので行わない。膝伸展位で行うようにする。

関節可動域訓練:痛みをみながら120°程度までとする。

        膝窩にタオルを挟んで脛骨後方移動を抑制しながら膝を屈曲していく

手術療法後のリハビリ

●急性期

荷重:非荷重

筋力訓練:大腿四頭筋は積極的に筋力強化を行う

関節可動域訓練:脛骨の後方偏倚に注意しながら膝屈曲90°程度を目安に行う。

        膝蓋骨のモビライゼーションにて可動性を確保しておく。

●回復期(前期)

荷重:術後3週から1/3荷重を開始して、1週ごとに増加させていく。

可動域訓練:屈曲120°を目安に行う

筋力訓練:ハムストリングスの強化は屈曲位では脛骨の後方偏倚を助長させる危険があるので行わない。膝伸展位で行うようにする。

●回復期(後期)

荷重:前荷重

可動域訓練:屈曲120°を目安に行う

筋力訓練:スクワットを始める。後方重心で行うことで大腿四頭筋を強調できる。

参考図書・教科書